最初にチェック! 【病気の概要】

  1. 蚊によって媒介される寄生虫病
  2. 成熟虫は主に心臓と肺動脈に寄生して循環や呼吸機能を障害する
  3. 治療法もあるが、あくまでも予防が重要

フィラリア症は犬糸状虫感染症とも言い、蚊によって媒介されます。蚊に吸血された際に犬糸状虫の幼虫が動物の体内に入り、やがて心臓や肺動脈に成熟虫が寄生するようになります。
治療法も進歩していますが、まだまだ予防薬の投与は重要です。

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原因

犬糸状虫(Dirofilaria immitis)が原因です。現在世界中で確認されており、媒介する蚊が存在する地域で気候条件が揃えば伝播が可能です。

ミクロフィラリア→ 幼虫(L1~L5)→ 成熟虫 と成長します。雌雄は分かれています。
ミクロフィラリアは300μmほどの大きさですが、成熟した雌虫では30cmに及ぶものもあります。犬糸状虫の寿命は5~6年のようです。
まれに人に感染して肺に結節を作ることがあります。

犬糸状虫のライフサイクル

ミクロフィラリアを持つ感染動物を蚊が吸血すると、ミクロフィラリアが蚊の体内に入る。

ミクロフィラリアは蚊のマルピーギ管でL3期幼虫まで発育し、口吻に移動する。

感染した蚊が他の動物を吸血すると、その刺し傷から動物の体内にL3期幼虫が入る。

L3期幼虫は成長しながら筋線維の間や静脈を通って心臓と肺に到達する。

成熟虫となり、肺動脈や心臓、後大静脈に寄生してミクロフィラリアを産む。

犬にL3期幼虫が感染した場合、成熟虫となってミクロフィラリアを産むようになるまで7~9ヶ月かかります。

症状

最初に気付くことが多い症状は、咳です。
病状が重くなるにしたがい、運動負荷に耐えられなくなったり呼吸困難になったりします。

重度の感染になると腹水が溜まり、失神することもあります。

犬糸状虫が大量に寄生すると血流を阻害し、大静脈症候群(Caval Syndrome)という急性の虚脱状態に陥ることがあります。

フィラリア検査

犬でフィラリア検査と呼ばれるものは、主に雌の成熟虫が分泌する蛋白質を検出するキットを用いています。
この検査で「陽性」と判断された場合は、さらにミクロフィラリア検査も行います。
どちらの検査も血液で迅速に判定できます。

成熟虫が心臓に寄生している場合、超音波検査で描出することもできます。

検査の感度は100%ではありませんし、予防薬の有効性も100%ではありません。万が一感染していた場合になるべく早く発見するためにも、検査は毎年1回行います。
後述しますが、フィラリア検査を行わずに予防薬を投与することは重大なリスクを伴いますので通常お勧めできません。

犬に感染が成立しても成熟虫やミクロフィラリアが出現するまでに7ヶ月程度かかりますので、生後半年までの子犬に検査をすることは意味がありません。

猫の場合は現在のところキットがありませんが、検査会社に外注することは可能です。

予防

屋内飼育の場合は、蚊の侵入を防ぐ対策を取ることで感染の機会を減らすことができるかもしれません。もちろんその効果は限定的ですので、予防薬の投与は必要です。

フィラリア予防薬の種類には経口剤、皮膚滴下剤、注射剤があります。経口剤と皮膚滴下剤は毎月1回、注射剤は6ヶ月に1回投与します。
これらの薬剤は主にミクロフィラリア、L3・L4期幼虫に効果を示し、継続使用することで若い成熟虫にも効果を発揮します。

毎月1回の予防薬を用いる場合の投与期間は、予防効果を高めたい場合には通年です。通常は蚊の活動時期に合わせて4~5月に始め、11月頃に終わります。

子犬のフィラリア予防は、検査が有用でないために予防薬の投与が先になります。
当然子犬でもフィラリアに感染する可能性はありますので、他の予防接種の時期も考慮しつつ予防薬を開始し、半年を過ぎた頃にフィラリア検査を行います。

予防薬のリスク

一部のコリー種など、P糖蛋白質欠損の犬種は特定のフィラリア予防薬に対して感受性が高いです。
通常の予防用量では安全性が確認されていますが、過剰投与すると毒性が現れますので、特に経口予防薬の誤飲には注意が必要です。

ミクロフィラリア血症の犬に予防薬を投与すると、ミクロフィラリアの急激な減少とともにショック症状を引き起こすことがあり危険です。
予防薬を通年投与していない場合、フィラリア検査をせずに投与を始めるのはやめましょう。

治療

成熟虫が大量に寄生して循環不全を示している場合は、まず外科的に可能な限り虫体を取り出します。

現在はメラルソミンという成虫駆虫薬があり、薬による治療が可能になりました。ただし、メラルソミンを投与した際に死滅した虫体は分解して肺の血管に詰まり、肺血栓塞栓症を引き起こします。
厳格な長期の運動制限が必要で、安静状態が保てずに重度の肺血栓塞栓症となると命に関わるため、治療は楽ではありません。
治療期間中は他に有効な薬も併用して投薬します。

メラルソミンが使えない場合は、予防薬と抗生物質を併用する治療を行います。犬糸状虫はボルバキアという菌を保有していて、この菌に有効な抗生物質を投与することが治療効果を高めます。
比較的穏やかな治療法と言えますが、成熟虫が死滅するのを待つことになるので治療期間はより長期にわたり、その間感染は持続していますし、かつ投薬や運動制限を続けている必要があるためにこちらも楽な治療ではありません。